池田 一方で、女性自身の発想の転換も必要だと私は感じています。
女性を支援していてつくづく思うのですが、自分で苦手を克服しようとしない方が少なくありません。
たとえば、インターネットで会議をするとなったとき、ITは苦手なのでできませんと言ってやろうとしない。あるいは経理の話、税金の話、法律の話、そういうものに対して分かりませんと言って止まってしまう。社会に対して関わっていく力が弱いのですね。
広く言うと、人生を主体で生きていない。自分の力でアクションを起こして何かを動かしたという経験が少ないので、いつも受け身になってしまう。その主体性のなさが、結局は本人に不利益に働くわけです。
普段から何かの時に相談できる人とコミュニケーションルートを作っておけば、いざというとき助けを求めることもできます。
助けてもらうには、どういう制度があるのか、まずは自分なりに主体的に調べたり考えたりすることはとても重要で、そのうえで相談しながら、より良い方法を決断していただきたいのですが、経営者に限らず、女性は往々にして受け身で、仕方ないよねと自分を納得させ、あきらめてしまう。もう少し頑張ればうまくいくのにと残念に思います。コンサルティングの仕事をしていて、ここを何とかしたい、とずっと思っています。
池田 発想の転換ですね。といっても、やることは、自分から調べてみるということだけなのですが、やらないばかりに、たとえば今回の新型コロナ対策の国の給付金(持続化給付金)100万円200万円が入ってこなかったりするのです。
ほかにも、相手の言いなりになって不利益な契約を結ばされてしまうとか、交渉できないといった女性が多いですね。
―― 裏を返せば、一歩踏み出す、自分で主体的に動く、普段から相談できる関係をつくっておく、交渉する、そういうことが、今のようなコロナ禍で厳しい時代を生き抜く力になるということでしょうか。
池田 私はそう思いますね。もちろん新型コロナ、地震などの天災、と今までにないことが起きているので怖いですよね。だから最初縮こまってしまうのは人間として仕方のないことだと思います。
でもずっとそうしているわけではないですよね。縮こまったままだと正確な情報も入ってきませんし、不安だからデマに振り回されやすくなる。インターネットで検索すればデマだとすぐわかるのに、検索しないがためにデマを丸ごと信じて動けなくなっている人が多数見られます。
―― 発想を転換させるために良い方法はありませんか。
池田 そのために私が女性創業セミナーなどで一番最初に話すのは、「自分で時間をコントロールすることに意識を向けましょう」ということです。
女の人はやることがすごく多いのです。夫と子どもがいておじいちゃんおばあちゃんがいて、ご近所があってPTAがあって、うっかりすると人の予定でスケジュールが全部埋まってしまう。それをこなすだけであっという間に5年10年たってしまいます。
そこで1週間の時間割表を作ってもらいます。子どもをスイミングスクールに連れていく、家族の夕食を作るなどは外せない時間。でもなんとなく過ごしている時間はないですか、と問いかけます。
もしもスケジュールがパンパンだとしたら、「今、私は新しいことが入らないくらいパンパンにやっている」と自覚して、何かをやめて自分の時間を作らない限りは、新しいことは始まりませんよ。そんなふうにお話をしていくと、〝私はどういう風にしたらいいだろう〟と頭が考え始めるのです。
―― 私は10時からは私の個人的な時間だから、夫に声をかけないでと言っています。
池田 そういう風にご家族の中で交渉していくこと、取り決めをすること、その延長にビジネスってあるのですね。
どうやって自分の時間を確保するかということをきちんと家族の中で話していく。結局それは一番基礎的なビジネスの交渉力になっていくわけです。私はこっち側をやるから、あなたはそっち側をやって、とコミュニケーションをとって納得しあう。そういうことを主体的にやっていくことで意識は変わっていくと思います。
池田 そうなんです。なんとなくやっているとパートナーから「起業とか言っているけど、ビジネスごっこだよね」と見られてしまうことが残念ながら少なくありません。男の人は稼げているかどうかを見ますから。
だから「これは私がやりたいことなので協力してほしい」ときちんと交渉することがご家族の中でも大事ですし、その方の主体性を、大げさに言うと人生を取り戻していくことになるのではないかと思います。
―― お互いに納得できるような交渉が上手にできれば、すごく働きやすくなるし、生活もいい感じになっていくということもあるでしょうね。
池田 これはネットに出ていた話ですが、ある女性が家事のタスクを一つひとつ羅列した表を作り、パートナーに見せたそうです。それを見てパートナーは、妻が日ごろどれだけのことをしているのかようやく気付いたと。「私はこれだけのことをやっている、あなたは何をやってくれるの?」と交渉し、これは私の担当、これはあなたの担当と決めていったそうです。
―― 協力してくれないと不満を言うのではなく、物事を明るみに出して交渉していくのですね。
池田 仕事は与えられたものをただやるだけ、という受け身の発想から一歩踏み出し、話をして何かをまとめていく。うまくまとめるためには世の中の動きなどを知らないと、たぶん相手の考えも理解できないでしょう。だから大人になっても学び続けるという姿勢がとても重要だと思います。
―― 一歩踏み出そうと思いつつためらってしまう女性たちにひと言お願いします。
池田 多くの女性には家庭、家事、育児、介護があり、これしか時間が取れないといった制約条件があるので、私たちアドバイザーはそういうところを聞いたうえで、お勧めする施策を考えていきます。
相談者が赤裸々な気持ちや状況を話してくださるのは、私が初めて会う人で、利害関係のない第三者だからだろうといつも思います。頭の中でモヤモヤ考えていることを言葉にすることで、自分のやりたいことが分かり、次のステップを踏めるならうれしいので、半分〝占い〟くらいの気軽な気持ちで、ぜひ私と話しに来てください。
そしてすべての女性が自分らしく、自由に考え行動し、勇気をもって夢を叶えてほしいと願っています。